要件定義段階のモックアップツール比較——Excel方眼紙・PowerPoint・Figma、またはAI?

要件定義の段階で「画面のイメージを見せてほしい」と言われても、いきなり動くプロトタイプを作るのは大げさすぎることがあります。プロトタイピングで要件定義の精度を上げるで触れた通り、PoC・プロトタイプは効果検証を伴う本格的な取り組みですが、要件定義の初期段階で必要なのは、多くの場合もっと手軽な「画面イメージのすり合わせ」です。ここでは、その用途で使われる代表的な3つのツールの向き不向きを整理します。

Excel方眼紙——罫線とセルで画面レイアウトを表現する

セルの幅を細かく調整し、方眼紙状にしたExcelシート上に、罫線と文字だけで画面のレイアウトを表現する方法です。

  • メリット:発注者側の担当者なら誰でも編集でき、追加のツール導入や学習コストがかかりません。すでに社内で使い慣れているツールで完結する手軽さが最大の利点です
  • デメリット:見た目が実際のUIとかけ離れやすく、部品(ボタン・入力欄など)を使い回すのも手間がかかります。画面数が増えると管理が煩雑になります
  • 向いているケース:情シス担当者がいない小規模企業で、社内メンバーだけで画面イメージの叩き台を作りたい場合

PowerPoint——スライド1枚=1画面で紙芝居的に見せる

1枚のスライドを1画面に見立て、ボタンやリンクにハイパーリンクを設定して画面遷移を紙芝居のように再現する方法です。

  • メリット:プレゼンテーションに慣れた担当者が多く、役員・意思決定者への説明資料としてそのまま転用しやすい形式です
  • デメリット:Excel方眼紙と同様、部品の再利用性は低く、画面数が増えるとスライド間のリンク管理が煩雑になります
  • 向いているケース:現場担当者だけでなく、経営層への説明・承認を得る場面も想定している場合

Figma——本物に近い見た目・遷移を再現できる

デザインツールFigmaのプロトタイピング機能を使うと、クリックで実際に画面遷移を試せる、より本番に近い見た目のモックアップを作れます。

  • メリット:ボタンや入力欄などの部品をコンポーネントとして再利用でき、実際にクリックして操作感を確認できます。デザイナーやエンジニアへの引き継ぎもそのまま行いやすい形式です
  • デメリット:発注者側に一定の学習コストがあり、ベンダー主導で作られると、発注者が細部の編集に関与しにくくなりがちです
  • 向いているケース:UI/UXの精度を重視したい場合や、モックアップをそのまま本番のデザイン・開発につなげたい場合

選定基準

ツールを選ぶ際は、次の3点を確認します。

  • 誰が主に操作・編集するか:発注者側で編集し続けるならExcel方眼紙やPowerPoint、ベンダーが主導して精度を上げていくならFigmaが向きます
  • どこまでの精度が必要か:認識合わせの叩き台で十分か、実際の操作感まで検証したいかで、必要なツールの表現力が変わります
  • 予算・期間:Figmaでの精緻なモックアップ作成には相応の工数がかかるため、要件定義の初期段階から本格的なツールを使うと、かえって議論のスピードが落ちることもあります

段階的に使い分ける

実務では、1つのツールに絞るより、段階を追って使い分けるほうがうまくいきます。要件定義の初期は、Excel方眼紙やPowerPointで大枠の画面構成・遷移をすり合わせ、認識のズレが解消されてきた段階で、Figmaに移行して細部の見た目や操作感を詰めていく、という進め方です。最初から精緻なツールを使うと、まだ固まっていない大枠の議論に時間を取られ、逆に手戻りが増えることがあります。

番外編:AIに手を借りる

Excel方眼紙・PowerPoint・Figmaのような従来のツールに加えて、画像生成AIによる叩き台作りを選択肢に加えるという方法も現実的になってきています。

AIに画面イメージを出力してもらう

生成AIに「在庫管理システムの一覧画面、シンプルなデザインで」のようにプロンプトで指示すると、それらしい画面イメージの画像を短時間で作らせることができます。ゼロから叩き台を作る手間を省き、「こういう雰囲気の画面が欲しい」という抽象的なイメージを、最初に具体的な画像として共有するのに向いています。

ただし生成された画像は「見た目の雰囲気」を再現しているだけで、実際のUI部品の挙動やレイアウトの正確さは保証されません。ボタンの配置や項目数が実際の業務要件と食い違っていることも多く、そのまま仕様として扱うのではなく、あくまで「方向性のたたき台」として使い、要件が固まってきたらExcel方眼紙やFigmaのような、正確に編集できるツールに移行するのが現実的です。

AIに手書きイラストを清書してもらう

ヒアリングの場でホワイトボードや紙に手書きした画面イメージを写真に撮り、画像を読み取れる生成AIに「この手書きの画面イメージを、読みやすいワイヤーフレームに清書して」と指示すると、線や文字を整えたデジタルの画像に変換できます。

ヒアリングの現場ではホワイトボードでの叩き台作りが最も速い場合が多く、その場で描いたラフなイメージをすぐに共有可能な形に変換できる点は、従来はデザイナーやベンダー側の作業だった清書を、その場で完結させられるメリットがあります。ただし、こちらも手書きの意図をAIが取り違えることがあるため、清書後は必ず「意図した通りに変換されているか」を確認する一手間が必要です。

あくまで補助的な位置づけ

AIによる画像生成・清書は、Excel方眼紙・PowerPoint・Figmaのような編集可能なツールを置き換えるものではなく、「認識合わせの初速を上げる」ための補助的な選択肢として捉えるのが実務的です。生成された画像そのものを要件定義書に転記するのではなく、そこから会話を始めるためのたたき台として使い、精度が必要になった段階で従来のツールに引き継ぐという位置づけが現実的です。

まとめ

Excel方眼紙・PowerPoint・Figmaは、それぞれ「誰が編集するか」「どこまでの精度が必要か」という軸で向き不向きが異なります。要件定義の初期段階では手軽なツールで大枠を固め、精度が必要になった段階でFigmaのようなツールに移行する、という段階的な使い分けが、無駄な工数をかけずに認識をすり合わせる現実的な進め方です。