要件定義で使う図の描き分け——業務フロー図・ER図・画面遷移図

要件定義が進むと、業務フロー図・ER図・画面遷移図など、いくつもの図が登場します。すべてを精密に作ろうとして息切れするか、逆に「図はベンダー任せ」と丸投げして認識のズレに気づかないまま進んでしまうか、どちらも要件定義ではよくある失敗です。それぞれの図が何を明らかにするためのものかを理解しておくと、どの場面でどれを使うべきかが判断しやすくなります。

業務フロー図——「誰が・いつ・何をするか」を明らかにする

業務フロー図は、業務の時系列と、担当者の切り替わりを可視化する図です。「担当者ごとに横一列のレーンを引き、そのレーンの中に担当する作業を時系列で並べる」スイムレーン形式が代表的な書き方で、誰の作業がどこで別の担当者に引き継がれるか、どこで承認が必要になるかが一目で分かります。

要件定義の初期段階、特に業務を分解する作業と相性が良い図です。現状の業務の流れをヒアリングしながら描き起こすことで、「実はこの承認ステップは形骸化している」「この作業は誰の担当か曖昧なままだった」といった、口頭の説明だけでは気づきにくい業務の実態が見えてきます。

発注担当者 上長 在庫を確認 発注申請を送信 承認 / 差し戻し 担当者へ通知 受領して完了
業務フロー図の例:在庫確認から発注申請、上長の承認を経て完了通知に至る流れ

ER図——「どんなデータを、どう関連付けて持つか」を明らかにする

ER図(Entity Relationship Diagram)は、システムが扱うデータの種類と、データ同士の関係性を表す図です。「顧客」「受注」「商品」のようなデータのまとまり(エンティティ)を箱で表し、「1件の顧客は複数の受注を持つ」「1件の受注は複数の商品を含む」といった関係性を線でつなぎます。

発注者が正確なER図を描く必要はありませんが、大まかな関係性を把握しておくと、「古いデータ」をどこまで引き継ぐかというデータ移行の議論や、画面上にどの情報をまとめて表示すべきかという設計の議論に、具体的な形で参加できるようになります。データの持ち方そのものへの関心は、データベースを嗜むカテゴリでも扱っています。

顧客 受注 商品 1 1

1件の顧客は複数の受注を持つ 1件の受注は複数の商品を含む

ER図の例:顧客・受注・商品の関係を「1」と「多」で表す

画面遷移図——「どの画面から、どの画面に移動するか」を明らかにする

画面遷移図は、画面ごとに箱を作り、「このボタンを押すとこの画面に移動する」という遷移を矢印でつないだ図です。機能一覧や仕様書の文章だけでは、実際に使う際の画面の流れがイメージしにくく、UI/UXが軽視されがちな要件定義において、操作の流れを具体的に確認できる数少ない手段です。

画面数が多いシステムでは全画面を描き切る必要はなく、主要な業務の流れに沿った画面だけを追うだけでも、「この操作の後、どこに戻ればいいか分からない」といった設計の抜けに気づけます。

ログイン画面 在庫一覧画面 発注入力画面 発注完了画面 戻る
画面遷移図の例:主要な流れに加え、入力画面から一覧画面へ「戻る」動線も明示する

3つの図の使い分け早見表

図の種類 明らかにすること 主に使う場面
業務フロー図 誰が・いつ・何をするか ヒアリング・業務の分解
ER図 どんなデータを、どう関連付けて持つか データ移行・画面の情報設計
画面遷移図 どの画面から、どの画面に移動するか UI/UX設計・プロトタイピング

発注者はどこまで描くべきか

UML(統一モデリング言語)の記法に厳密に従った図を描く必要はありません。目的は「正確な図を仕上げること」ではなく、「発注者とベンダーの認識をすり合わせるための共通言語を持つこと」です。手書きのメモやホワイトボードの写真、Excel・PowerPointで作った簡易な図でも、業務の流れ・データの関係・画面の遷移という3つの観点を押さえていれば十分に機能します。

逆に、ベンダーから精密な図だけを渡されて内容を追いきれない場合は、「この図は業務フロー図なのか、画面遷移図なのか」を確認するだけでも、何を確認すべき図なのかの見当がつきやすくなります。

まとめ

業務フロー図は「誰が・いつ・何をするか」、ER図は「どんなデータを、どう関連付けて持つか」、画面遷移図は「どの画面から、どの画面に移動するか」を明らかにするための図です。3つは役割が異なるため、どれか1つで済ませようとせず、要件定義の各段階で必要な図を選んで使うことが、認識のズレを防ぐ近道になります。